昔の回想
竜哉の昔の回想。
「龍崎イクオと段野竜哉。
二人には生涯を捧げる目的があった。
20年前、児童養護施設まほろばで柏葉結子が殺された事件。
その現場から逃走した4人の男たちと事件をもみ消した警察官・金時計の男。
回想。
忍足が言い放つ。
『まあ恨むなら柏葉結子を恨んでくれ』
警官姿の結子先生の写真を見てイクオ。
『なんで結子先生が』
『結子先生は公安の人間だ』
警察と極道。
表と裏の世界で成り上がり、金時計の男を探し出そうとする二匹の龍ウロボロスの前に次々とたち現れる新たな真実と新たな事件。
『北野警視総監が狙撃されました』
『まほろばに関わった医者の情報は全部息子に預けた。あれが世間に知れたら、あんたらだってやばいだろ』
『もし本当に段野竜哉と関係があるのなら、私の前からいなくなってほしい』
美月の言葉。
『ちょっと気になっただけだよ。俺たちにとって大事なことか。何かお前の中でぶれてねえかって』
竜哉は言う。
少しずつ歯車が狂い始めていた」
背面で動く影
回想。
金時計の男にまほろばに連れてこられる子供の頃のイクオ。
『さあ着いたよ。今日からここがお前の家だ』
笑顔で迎える結子先生。
「私、柏葉結子。結子先生って呼んで」
「ゆいこせんせい…?」
「うん。暑いから中入ろう。麦茶入れてあげる」
結子先生が出す手に、イクオも手を差し出した。
「新入りってそいつ?」
「新入りじゃなくて新しい家族。ほら自己紹介して」
「俺、段野竜哉。お前は?」
「龍崎イクオ」
「りゅうざき?変な名前」
竜哉のこめかみを拳骨でおす結子先生。
「たつや。こいつね。口は悪いけど、いい子だから」
「口悪いのはお互い様だろ」
「何ですって?」
男が去る後姿を見つめるイクオ。
病室。
「龍崎さん!龍崎さん!」
飛び起きるイクオ。
「大丈夫ですか?」
美月が心配そうにイクオを見つめる。
「日比野さん……」
「医務室です。査問会で突然倒れたらしくて」
『そうだあの時……』
鷲尾と日比野の腕に光る金時計を思い出すイクオ。
「無理しないでください。凄くうなされてましたよ」
「日比野監察官は」
病室を出るイクオと、後を追いかける美月。
廊下で橘に出会う。
「あ、龍崎君目が覚めた」
「すみません、ご迷惑をおかけして」
「問題ないわ。それにあなたの処分見送られたから」
「え」
「日比野監察官の説得でね。現場の状況を踏まえてあなたの発砲はやむを得なかったって。
体調に問題がなければ後でお礼にうかがいなさい」
「失礼します」
電話をかけるイクオ。
「もしもし……」
日比野首席監察官。
「まだ消息不明か……」
山崎隼人の複数の写真を眺める日比野。
山崎のマンションの前の路上の車中。
「俺らいつまではってなきゃいけないんですかね」
「めんどくさいな」
車をノックする二人。
「本庁のモノです。交代に来ました」
「面倒なことを所轄の皆さんにお任せするのは、ね」
イクオと刑事に変装した竜哉が申し出る。
山崎のマンションに入る竜哉とイクオ。
「無駄にいい暮らししてるな」
「その隼人って人、山城組の幹部だったんでしょ」
「形だけな。親父のバックがなければ何もできないぼんくらってある意味有名人だった」
「金持ってるなら海外へ逃げてるんじゃ」
「逃亡中の人間は身も心も消耗する。案外土地勘のある場所に潜伏したりするもんだろ」
「だとしたら例の公安の二人に見つかる可能性も高くなるね」
公安の二人の会話の回想
『あとは山城会長の一人息子か』
『あんなのただのチンピラだろ。わけねえよ』
「絶対あいつらより先に見つけなきゃな」
「うん」
「竜ちゃん、ちょっときて」
アルバムから一枚の写真がなくなっているのを竜哉に見せるイクオ。
周りはレインボーランドの写真やチケットだった。
バーで飲む橘と美月。
「龍崎イクオと付き合ってる?」
「いやいやいや、全然そんなことないですよ」
「そう。じゃ単刀直入に聞くけど龍崎くんは何者?あの混乱の中普通あれだけ冷静には動けないわよ」
「ああ見えて新宿第二署のエースですから」
「たったそれだけの理由であなたのお父さんが出向を命じると思う?何か特別な思い入れがあるのは間違いないと思うけど」
「父がどういうつもりなのか私にはわかりません。それに龍崎さんが本当はどういうひとかも。でも私は龍崎さんを相棒として信頼しています。あの人は悪い人ではありませんから」
「なるほどね」
山城のマンションに居る竜哉とイクオ。
「14日ってったら三日後だな」
「じゃもしかしたらこのレインボーランドの?」
「ああその可能性はあるな。手がかりも手に入ったし、そろそろずらかるか」
「竜ちゃん。本庁に居たよ。金時計の男」
「本当かよ」
「それも二人。副総監の聖って人と、もう一人は警備部の日比野首席監察官。でもあの時の男かはわからなかった。それに金時計組があの二人だけとは限らないし」
「自分で言っててわかってるんだろイクオ。どっちかってたら怪しいのは日比野の方だって。これでますます日比野美月と距離を置く必要がでてきたな。場合によっちゃそのオヤジぶっ殺すこともあるんだぞ。相棒だからって下手に気を許すな。いつ敵に回るかわからねえんだから」
地下駐車場で車を停めると駆け寄ってくる東海林を見て声をかける蝶野。
「なにやってるんだそんなところで」
「蝶野さん、はは、お疲れ様です」
「お疲れ様ですじゃねえだろ。連絡もしねえで欠勤しやがって。どういうつもりだてめえ」
「いやあの。こういうつもりなんです。すみません。本当にすみません」
蝶野に銃を向ける東海林。
銃声。
本庁 捜査一課。
出勤してきたイクオが美月に声をかける。
「なんかさ、今日変な空気なんだけど」
「近々大きな人事再編があるって噂みたいで」
「人事再編?」
小夏が話に入る。
「どうやら副総監派が一気に勢力拡大を狙っているみたいね」
「小夏先輩」
「元々穏健派の警視総監とバリバリ武闘派の副警視総監はそりが合わなかったみたいで」
「大きな組織にはよくある派閥争いです。私たちには関係ありませんから」
「またまた日比野監察官だって立派な第三勢力でしょ。警視庁にも検察庁にも上層部にもパイプを持っているスーパーキャリアだもん。ね?美月ちゃん」
「それも、私には関係ありません」
「はいはい。あそういえば、ふたりに関係ある話あったわ。さっき第一署の刑事の遺体が発見されたって」
河川敷高架下。
「まさかこんなことになるとはよ」
「相棒の到着です」
「東海林」
東海林の遺体を前に蝶野が現れる。
回想
『すみません俺』
『まさかお前に打たれるとはな。朝から俺を付け回してた。
こっちは変なことがあったあとだ。警戒してるんだ。
無防備に出歩いたりするかよ』
『防弾チョッキ……』
『こっちが質問する番だ東海林。なんで俺を撃った?』
『蝶野さんを撃ったら
俺、押収品を横流ししてたんで。どうしても金が欲しくって』
『そんな指示誰が出してたんだ、いえよ東海林!』
『東海林!』
東海林は走り去る。
蝶野の電話に着信が入る。
『もしもし』
『蝶野君。東海林の処理をこちらで行う。今回運よく命を拾った君に警告しておこうと思ってね。これ以上段野竜哉を追いかけるな。でないと相棒と同じ運命をたどることになる』
思い出した蝶野は呟く。
「自殺なんかじゃねえ」
「蝶野。おまえなんか知ってんのか。」
ショックを受けるイクオと美月。
「まさか東海林さんが自殺するなんて」
「日比野さん」
「何が起こってるんでしょうね、私たちの周りで。それに私気になってるんです。
あの言葉がもし本当なら……」
日比野がイクオと美月の前に現れる。
「日比野監察官……」
「龍崎君、体調はどうかね」
「いいんだ、それより今日仕事が終わったら少し付き合ってくれないか」
我孫子会
竜哉と桐乃が話をしている。
「でやっぱり答えられないのかい?山城と会ってどうするつもりだったのか」
「すみません」
「けじめだよ。直参の話は見送らせてもらうよ。あんたが他でなんかやってんじゃないかって勘ぐってるやつもいる。あんまり敵を増やすのはうまくないよ」
「ひとつだけ答えな。あんたが何か人に言えない目的を持ってるんだとして
その目的を果たしたそのあとはどうするんだい?」
帰りの車中で竜哉と深町。
「そうですか、流れてしまったもんは仕方ないです。竜哉さんならまたすぐ出世の話は出ると思うんで」
「あまり期待するなよ。おれは興味がねえんだ」
「それでも俺はついていきます。竜哉さんが仮に地獄へ向かってるんだとしても俺は好きでおそばに居させてもらってるんで」
喫茶新宿キッチン。
「オムライス二つ」
日比野がイクオと席に座っている。
「勝手に注文して悪かったね。君に御馳走になってから、ここのオムライスにやみつきでね」
「いえそうではなくて。僕なんかになんの御用ですか」
「聖副総監のことだ。彼が組織の再編をすすめようとしているのは知ってるだろ。
表向きのことだ。実際には聖君の元に平然と違法捜査をする面々が形成されている」
「どうして副総監がそんなことを」
「彼は総監がいない間に反社会組織を一掃するつもりなんだよ。功を立て警視庁を完全に掌握するために」
「これは明らかに警察権力の暴走だ。私が警視庁に移動してきたのはね、警察の腐敗を食い止める為なんだよ。その為には信頼のおける良心のある存在が不可欠なんだよ、君のようなね」
「それが僕を本庁に出向させている理由ですか」
「信用できないかね」
イクオが日比野に尋ねる。
「このお店で初めてお会いしたのは偶然なんですか」
「どういう意味かな」
「日比野監察官は僕のことを僕の過去を御存じなんじゃないかと思って。20年前まほろばという児童養護施設で起きた殺人事件についても」
「何のことかわからないが、何か引っかかってることがあるなら話してくれないか」
「……いえ、いいんです」
警視庁
イクオが聖副総監とすれ違う。
聖副総監の後を付けようとした時に美月から電話が鳴る。
「龍崎さん、もうお昼出ちゃいました?」
蝶野は電話の声を思い出していた。
『段野竜哉をこれ以上追いかけるな、でないと君も相棒と同じ末路をたどることになる』
三島がやってくる。
「何か掴んでんだろ、一人で抱えてねえで、な聞かせてくれ。」
「三島さんマジですか。」
警視庁屋上。
イクオに弁当を渡す美月。
「オムライス」
「ええ、一応。他のおかずは地味であれですけど。この間助けてもらったお礼です」
「頂きます。は…お、おいしい。うん。おとといも昨日も店で食べたんだけどさ、全然食べた気がしなくて、本当においしい」
「昨日、父と何を話したんです?」
「僕を出向させた理由とか、それだけだけど」
「日比野さん、お父さんの子と話すとき機嫌よくないよね」
「あの人は警察官としては優秀だけど、家庭人としては最低の人でしたから。もともと体が弱くて、母の最期は私が一人で看取ったんです。『お父さんが殺したんだあよお母さんのこと。人殺し』」
「私が家事をこなして、父は仕事に行って。バカバカしくなって大学から一人暮らしをして、それっきりです」
「じゃどうして警察官に」
「確認したかったんです。あの人が家族をないがしろにしてまで情熱を注いでいる仕事がどんなものか。あんな人でも一応家族ですから」
「そっかそうだよね……。でも、うん。ほんと、美味しいよ、このお弁当」
「よかった。人の為に作ったの久しぶりだったから」
イクオの言葉に顔がほころぶ美月。
新宿第二署。
三島と蝶野。
「じゃなにか東海林は公安のゼロっていう連中に始末されたってのかよ」
「そう考えるのが一番自然ですからね」
「何があったかわからねえな。松江組の段野に公安、その上、龍崎まで怪しいって言われたらよ」
「龍崎をどう思ってるんです、龍崎のこと」
「俺が言えるのは、あいつは俺の部下だってことだけなんだ。けどな、うちの業界に妙な動きがあるのは間違いない。おい覚えてるんだろ。この間の警察官連続バラバラ殺人事件」
「境川署の警官が犯人だったという。確か殺された三人とも三島さんの同期」
「そうだよ。殺された三人は20年前当時警視正だった北川総監の下で働いていた。それぞれあとも懇意にしてたらしい」
「ちょっとまってください」
「じゃあな、三人が殺された後すぐ総監も撃たれてしまった。偶然にしちゃ出来すぎてねえか?」
「誰がこんなことをしたんですか!」
「俺に聞くなよ!てか目血走ってんな、おい」
本庁・捜査一課。
お弁当を二つ置く美月に小夏が声をかける。
「ふーん。それイクオっちの分」
「ああ作りすぎたんでたまたまですよ、たまたま。昨日作ってきたら予想以上に喜んでくれたから」
「わかったわかったから、がっかりしないで聞いてね、美月ちゃん。今日これ私が食べてあげるから。今日イクオっちお休み」
「あ……」
遊園地の惨劇
夜の遊園地。
メリーゴーランドの前に座り、昔の父と自分の写真を眺める山城。
「なにしてんだか」
竜哉とイクオが声をかける。
「ほんとにな。はってて大正解だったよ、山城隼人」
「安心して。警察だから」
逃げようとする山城を引き留めようとする。
「あ、ちょっと」
「ばーか、こいつ狙ってる公安も警察だろ」
「あ……」
「安心しろ。俺はお前と同じやくざだからよ」
「なんなんだよ、おまえら」
「殺された親父から預かっているものをもらいに来た。お前を助ける交換条件で」
裏道を行く美月。
イクオの家につきチャイムを押すが無音。
「龍崎さん」
遊園地。山崎と竜哉とイクオ。
「なんだよそれ。じゃ親父は濡れ衣着せられた上に殺されたってのかよ」
「ああお前ら山城会がつるんでた公安の連中にな」
「公安……」
「君も幹部なら接触してるんじゃないのか」
「ゼロって呼ばれてる連中かもな」
「ゼロ?」
回想。山城会。
忍足と我那覇。
「ゼロにふさわしい人材はそういないんでね」
「優秀ってもね。ひとりはいち抜けして一人は会社経営やってんだからな」
「そのゼロって連中だな、結子先生を殺したのは。行方不明ってのは湯浅っていうホームレスだろ。で会社経営ってのは桂田だな。あの二人は口封じのために殺された」
「残り二人ってのは」
「忍足と我那覇を入れたら4人だ。20年前現場から逃げてったのと同じ」
頭をかかえてうずくまるイクオ。
回想。
20年前の犯人達。
「イクオ!イクオ!」
『君たちは何も見ていない、何も知らない』
『君たちのちっぽけな人生を握りつぶすことは簡単なんだよ。警察組織はね』
回想のなかで金時計の男の顔は聖副総監だった。
頭を抱えながら、イクオが見上げた時、展望台から狙撃しようとしている二人が見える。
竜哉をかばい、銃弾を受けるイクオ。
撃たれたイクオを抱えて逃げる竜哉と山城。
トンネルの中にイクオを寝かせる。
「もう大丈夫だ、しっかりしろ。おい、脱がすの手伝え!」
山崎に手伝わせる。
「イクオ、大丈夫だ、イクオ、しっかりしろ!」
「たっちゃん。はっきり思い出した。さっきのやつらだ。20年前現場から逃げたのは……。それに金時計も……」
「おい、どうすんだよ。これ渡せば助けてくれるって言ったろ?」
「助けてやるよでも今逃げ回ってどうにかなる状況じゃないだろ」
「んなこといったってそいつ撃たれてるし」
「僕は平気だから……あいつら……」
美月にイクオの番号で着信が入る。
『日比野美月だな。龍崎イクオが負傷した。腹を撃たれている』
竜哉がイクオの携帯で美月に話す。
「そうですけど、あなたは?」
『時間がない。応急処置の準備をして今すぐレインボーランドに来てくれ」
「あなた、段野竜哉?そうでしょ?」
『場所はレインボーランドの東側。レインボートレインのトンネルのなかだ』
「質問に答えなさい。どうしてあなたが龍崎さんの携帯を。撃たれたって誰に?」
『頼む。こいつを死なせたくないんだ。イクオを…助けてやってくれ』
イクオに上着をかける竜哉。
「いいかイクオ。ここで少し待ってろ」
「竜ちゃん……」
警視庁。鷲尾副総監。
「間違いないのか」
「複数の目撃証言があります」
「現場に向かう。私の指揮下にある全捜査員もだ」
「相手はチンピラ一人ですよ。おおげさじゃないですか」
「一刻を争う。急げ!」
「わかりました」
遊園地のお化け屋敷。
忍足と我那覇が入っていく。
「めんどくせえ所に逃げ込みやがって」
「逆に人が少ないこの時間帯なら好都合だ。二手に分かれるぞ」
「わかったよ。銃を使うなっていうんだろ。まこっちの方が楽しめるからな」
「助かった。ここが昔のままでよ」
「よく知ってたな。こんなところ」
「9歳の誕生日にこのお化け屋敷が出来たての頃に来たんだ。親父に連れられて。
どういう気まぐれか休みをとってくれてよ。結局それ一回きりだったけど。くそおやじ。俺残して殺されちまって」
「いい親父さんじゃねえか」
「おまえはねえのかよ。連れて行ってもらったこと」
「ねえよ俺達施設で育った」
「さっき言ってた結子先生って人殺されたって言ってたけど」
「ああ、殺された。お前の親父をやったのと同じ連中だ。家族だった。いや俺にとっては……」
回想
「ただいま」
「結子先生大変大変!」
バレンタインデーのチョコレートを大量に持ち帰ってくる竜哉。
「たっちゃん僕これ食べていい?」
「竜哉、好きな女の子とかいないの」
「学校にはいない。みんなガキくせえし」
「学校以外には?」
「いるよ。一応、好きな人」
「人のこと心配してる場合じゃねえだろ。結子先生全然男っ気ないし」
「いるよ。一応、好きな人」
「結子先生たっちゃんの真似してるし」
回想が終わり竜哉が呟く。
「奪われたんだ、俺の大切なあの人の命が。だから奪った奴らをぶっ殺す」
竜哉が山城に告げる。
「片づけてくるから。お前ここに隠れてろ」
「いくよ俺も」
刃物を手に山城もついていく。
「無理すんな持ちなれてねえのバレバレだぞ」
「あぶねえ」
「逃げろ」
山城に叫ぶ竜哉。
「おい人の心配している場合か?」
我那覇が竜哉に攻撃する。
橘のワゴンに三島が乗り込む。
「なんだよ。急に電話してきて」
「聖副総監が全捜査員を動かしてるんです」
「お前な、本店のごたごたに俺を巻き込むな気かよ」
「乗りかかった船でしょ」
蝶野が後部座席から声をかける。
「蝶野」
「私に直接コンタクトしてきたのよ。誰かさんがべらべらと本店のこと喋ったおかげで」
「分かったよ、つきあうよ俺も」
「当たり前です」
美月がトンネルの中のイクオを見つける。
「龍崎さん!!!」
「日比野さん……」
「救急車呼びますから」
「だめだ……、行かないと」
「行くってどこに」
消毒液を自身の腹にかけるイクオ。
竜哉とたたかっている我那覇。
「俺は警視庁機動隊、鬼の四番隊の元トップだぞ。まあ訓練中にわけえやつ殴り殺して左遷させられかけたところに、ゼロに拾われたんだけどな。そういえば公安に入って最初の仕事だったよな。あの柏葉って女を始末するのがよ。つまんねえしごとだったよ。なかなかいい女だったからよ。なぶり殺してやろうと思ってたら、結局銃で撃ち殺すことになって」
日比野首席監察官。
「わかった。引き続き進めてくれ。……警察を裁くのは我にあり、か」
美月がイクオの手当てをしている。
「止血は出来ましたけど」
「十分だよ」
「何があったか説明してください」
「ありがと。来てくれて助かった」
去ろうとするイクオ。
「龍崎さん!行かないでください。こんな体で無茶です。どうしても行くっていうのなら私も一緒に行かせてください」
「段野竜哉から電話があったんでしょ。なら、僕がうそつきだってわかったはずでしょ」
「理由は教えてくれないんですか」
「言ってたよね日比野さん。もし反社会組織の人間とかかわりがあるのなら、自分の前から消えてほしいって。だから、たぶん。もうすぐ消えるよ」
「僕は……日比野さんが許せない種類の人間だから」
我那覇が竜哉に告げる。
「そろそろあきらめな。殺す前な聞かなきゃいけねえことがあるんだよ。
もってんだろ柏葉結子のウロボロスをよ」
負傷し移動中のベンチで動かなくなるイクオ。
首にはウロボロスのペンダントが光っている。
「たっちゃん……」